Skip to content

翻訳記事:

  • RED HAT Magazineは、米国発の記事を翻訳したものです。

RED HAT SPEAKS

Mugshot:楽しんで参加する

原文(英語/2006年6月)

2006年のRed Hat サミット (テネシー州ナッシュビル)において、Red HatはMugshotという新プロジェクトを立ち上げることを発表しました。Red Hatは、これまでテクノロジを探求する技術者やコンピューティングの専門家向けにオープンソーステクノロジを開発してきましたが、Mugshotではその実績に基づいて、オープンソースソフトウェアとオープンソースの理念をメインストリームのユーザにまで浸透させるという野心的な目標をかかげています。

Mugshotの目的は、およそエンタテインメントと名の付く分野において、生オープンプロジェクトにこだわって、生きた社会経験を育成してゆくことです。この記事では、これら3つの要素のそれぞれについて説明します。

現実の社会的経験

その著書『Everything Bad is Good For You』のなかで、Stephen Johnson氏は、大衆エンタテインメントとメディアが複雑化して捉えにくいものになっているため、その利用において消費者にはますます認識力が要求されるようになっているという見方を提起しました。現代の文化は大衆受けをねらった競争のなかで劣悪になっていると思われがちですが、Johnson氏によると、現代世界では大衆メディアの複雑化によって、精神集中力、分析的な推論力、社会的な推論力、それに複数の情報の脈絡を同時に追いかける能力など、重要なスキルの発達が促されます。Johnson氏は、この現象をウッディ・アレン監督の古典的なSFコメディ映画『スリーパー(Sleeper)』(1973年)にちなんで、「スリーパーカーブ」と呼んでいます。この映画は、20世紀の市民が200年後の未来に連れて行かれ、文化的な価値や前提の大きな隔たりに直面するという話です。

Johnson氏は、さまざまなメディアでスリーパーカーブの証拠を指摘しています。ビデオゲーム関連では、プレイの場所やルール体系がきわめて限定されていた『Pong』や『Pac-Man』のような初期のゲームに比べて、複雑さが大幅に増大していることを実証します。たとえば、『Grand Theft Auto』や『Half-Life』などのゲームでは、事実上無限の3次元世界を動くことができ、勝ち方だけでなく、ゲームのルールや目標そのものを理解するにも探求が必要です。テレビ関連でも、Johnson氏は同じような複雑さの増大を指摘しています。『Dragnet』では、各エピソードに含まれる完結した1話のなかに、ほんの一握りのキャラクタしか登場しませんでした。『24』や『Lost』では、ユーザは、からみ合う複数の脈絡のなかで登場する何十人ものキャラクタ、複数のエピソードやシーズンにまたがるわき筋を追いかける必要があります。

ゲームとテレビが次第に複雑化しているとして、ではパーソナルコンピューティングはどうでしょうか。電子メール、インスタントメッセージング、それにWebのおかげで、大半のコンピュータユーザは現在、5年前や10年前に比べてはるかに複雑なコンピューティング環境に置かれるようになっています。この傾向は、従来の職業的な「事務員」環境の外へ出るとさらに顕著になります。ここ数年の間に、MySpaceFacebookなどの社会ネットワーキングサイトに見られるような、オンラインで行われる新しい形の社会的相互作用が登場してきました。同時に、Wikipediaプロジェクトに代表されるように、ブログやWikiのようなテクノロジによって、メインストリームメディアの製作に個人が直接参加する可能性が生み出されています。現在のメインストリームのコンピューティング環境が、以前に比べて複雑化していることは明らかです。しかし、ソフトウェア環境は、こうした複雑化に歩調を合わせているでしょうか。

Mugshotプロジェクトの目標の1つは、さまざまなメディアが登場したこの新しい環境で、情報の消費を組織するための新しい方法を探究することです。我々の中心的なアプローチでは、ファイル、フォルダ、アプリケーション、プロトコルといった技術的な産物ではなく、人々とそのリアルタイムの活動に焦点を合わせ、現実の社会的経験を生み出すことに重点を置きます。Mugshotプロジェクトを開始して、我々は現実の社会的活動のちょっとした例を2つ開発しました。1つはWebページの閲覧に関するもの、もう1つは音楽の共有と発見に関するものです。

これらの活動の1つ目であるWeb Swarmは、 Webページの閲覧と発見に現実の社会的要素を付け加えます。Web Swarmでは、ユーザは興味のあるWebページをグループとの間で容易に共有できます。この共有の参加者は、リンクが共有されているとき、他の受信者がページを参照したとき、または誰かがページに関するインスタントグループチャットに参加するステップを進めた場合に、控えめな通知をリアルタイムで受け取ります。こうして、ユーザは通路で他人の会話を小耳にはさんだり、街路で人だかりを見かけたりしたときのように、生の会話に引き込まれます。共有リンクとそれに伴う会話は保存され、ブログ様式のWebインタフェースから利用可能になります。そのため、Swarmの動作中にオフラインだったユーザも参加でき、その話題に関して新しいライブSwarmを構成することもできます。ある意味で、Web Swarmは、仲間と共同でインターネットを編集することによって情報の過負荷に対処する方法といえます。

2つ目の活動であるMusic Radarでは、音楽の好みを受動的に共有することに焦点を合わせます。Music Radarによってユーザは、AppleのiTunes、Windows上のYahoo! Music Engine、LinuxではオープンソースのRhythmboxアプリケーションなど、さまざまなアプリケーションやサービスでの音楽再生履歴を受動的に追跡できます。各参加者の音楽履歴は、Mugshot Webサイトで「最近の曲」、「最もよく聴かれている曲」、「今日最もよく聴かれている曲」など、さまざまな条件を指定して参照できます。グループの音楽に関する集計情報も利用でき、「自分の大学で現在人気No.1のポピュラーソング」のような興味深い傾向が明らかになります。最後に、Music Radarを使用すると、ユーザは現在聴いている音楽や以前聴いていた音楽の履歴に関する情報をリアルタイムで他のWebサイト(MySpaceプロファイルや自分のブログなど)に掲載できます。

Web SwarmとMusic Radarは、Mugshotプロジェクトの核心である「現実の社会的経験」というコンセプトの2つの例ですが、我々はこれらは始まりに過ぎないと考えています。Web SwarmとMusic Radarの環境を拡張、改善し、テレビやビデオをはじめとする他のメディアに関して新しいタイプの現実の社会的経験を開発するための作業がすでに進行中です。

エンタテインメント

これまで、オープンな開発およびライセンス供与モデルは、ソースコードとソフトウェアに適用されることがほとんどでした。このモデルは、他の状況でも同様に利点があります。非営利組織である Creative Commonsは、ソフトウェア以外の出版物、音楽、ビデオといったメディアにオープンソースコンセプトを適用したパイオニアです。Creative Commons運動の指導者の1人であるLawrence Lessig氏は、最近、次のように述べています。

「フリーカルチャー運動は、フリーソフトウェア運動から着想を得たものと考えられます。この運動はフリーソフトウェア運動よりも大きな意義を持つことになると思います。プログラマの自由がいかに重要であろうと、彼らが人口に占める割合はごくわずかです。一方、文化というものは、はるかに幅が広いのです。」

Mugshotでは、コンテンツ作成と出版の両方、および編集選択プロセスを、活動的なコミュニティとして組織された個人に開放するという考えを実験しています。個人が自分たちの消費するメディアをより幅広く管理できるようにすることによって、Mugshotは営利、非営利を問わず、コンテンツプロバイダ間で条件の公平化を促進します。最終的には、これによってマーケティングの強弱にかかわらず、最良のコンテンツが高い評価を得るようになります。

Mugshotでは、どのように条件を公平化するのでしょうか。たとえば、Music Radarでは、複数のサービスプロバイダがサポートされています。音楽ファンがLinux環境でRhythmboxの個人用コレクション内のCDから商業音楽を取り出して聴く場合、そのプレイリストはWindows上でiTunesを使用している知り合いとシームレスに共有でき、またその逆も可能です。さらに、曲目単位の支払モデルでiTunesを使用している人は、Yahoo! Unlimitedに加入している友人との共有が可能です。これによって、月間サブスクリプションの有効期間内であれば、販売カタログから一部の曲を聴くことができます。

Mugshotプラットフォームはオープンな性質を持つため、非営利の音楽ソース(Creative Commons ccMixterプロジェクトなど)を最高のユーザ環境でサポートできます。Linuxユーザは、Windowsを使用する友人との共有を行うモバイルデバイスのユーザと通信できます。すべての人が参加できるのです。我々は、これらすべてによって、ユーザ環境が企業の方針や課題よりも個人の情熱と関心によって規定されるようになり、向上していくものと確信しています。

オープンプロジェクト

メインストリームのユーザを対象とした大方のWebサイトやサービスと異なり、Mugshotはオープンコミュニティプロジェクトの一環として開発されています。MugshotのWebサイトとWebサービスを強化するソースコードは、すべてオープンソースライセンスで利用でき、そのWebサイトと連携して動作するクライアントソフトウェアも同様です。こうしたことは他のいくつかのメインストリームプロジェクト(Wikipediaなど)でも行われていますが、このようなオープンモデルは概して一般的ではなく、例外的です。Yahoo!やGoogleのサービスのソースコードは、たいていダウンロードすることはできません。

オープンプロジェクトの利点の1つは、すべてのユーザがサービスの設計と開発に参加できるということです。Mugshotプロジェクトは、その開発プロセスにおいて設計の検討を重視しています。この方式では、テクノロジの選択や実装と同じ程度に、問題の定義、研究、アイデアの考案、プロトタイピング、および学習に重点が置かれます。そのため、あらゆる種類のコントリビュータがMugshotプロジェクトに参加する機会を与えられます。ソフトウェア開発者やテスト技術者だけでなく、Mugshotプロジェクトでは、ユーザに関する調査と観察を実施する民族誌学者、動作やインタフェースを定義するインタラクションデザイナー、およびアイデアやフィードバックを提供するユーザなどの参加を積極的に追求しています。

Mugshotをオープンプロジェクトとして組織し、新しいタイプの現実の社会的経験を開発するうえでの障害を軽減することによって、我々は迅速な技術革新を促したいと考えています。現在、新しい「Web 2.0」の新規事業が壮大な野心をもって毎日のように立ち上げられていますが、リソースが十分ではないため、多くの場合は段階的にユーザ環境を改善するのがせいぜいです。こうした時代に、我々は、最も優れたアイデアが実際のユーザによって迅速にプロトタイピングされ、テストされるようなオープンプラットフォームを提供したいと考えています。現在の研究分野の1つは、Mugshotユーザが自分のMugshot IDと連絡先情報を他のWebサイトやアプリケーションで自由に再利用できるようなオープンWebサービスインタフェースの設計です。これによって開発者は、新しいアカウントシステムを毎回最初から構築し、入力しなくても、新しいタイプの社会的やり取りをプロトタイピングできます。

参加方法

Mugshotは、エンタテインメントに関して現実の社会的経験を生み出すという明確な目的を持ったオープンプロジェクトです。2006年6月現在、Mugshotプロジェクトでは、最初のWeb SwarmとMusic Radarの機能について限定的なユーザ試験を実施しています。この試験への参加の申し込みやMugshotが一般に提供されたときの通知をご希望の場合は、MugshotのWebサイトにアクセスしてください。Mugshotの設計や開発に参加する方法の詳細については、開発者サイトプロジェクトのブログをご覧ください。

その他の情報

執筆者について

Donaldは、Red HatでMugshotプロジェクトを管理しています。彼は2003年にRed Hatに入社し、Red Hat Enterprise LinuxおよびRed Hat Desktop製品群のプロジェクトマネージャを務めました。Donaldは以前、インターネット検索のパイオニアであるInktomi社(現在はYahoo!が買収)のコンサルティングソフトウェア技術者でした。Donaldは、Red Hatのエンジニアリング本部(マサチューセッツ州ウェストフォード)に勤務しています。