
MITメディア研究所の所長で共同設立者のNicholas Negroponte氏には、夢が、実に大きな夢があります。そして、彼はRed Hatのように紅い夢を見ています。One Laptop per Child(OLPC)プロジェクトがNegroponte氏の大きな夢であり、Red Hatは日々、その夢を現実に近づけています。
では、OLPCプロジェクトとは何でしょうか。それは、すべての子供があらゆる場所で、およそ考えられうる最高の教育を受けられるようにするプログラムです。安価なノートPCを開発し、配布することによって、生徒たちの積極性と創造性がかきたてられます。校舎の壁を超え、教科書とノートのページを離れて学習を進めることができます。これらの100ドルノートPCのプラットフォームはオープンソースで、自分の学習ニーズとスキルの発展に合わせてカスタマイズしたり拡張できます。PCは時には図書館、またあるときには音楽スタジオに、時にはアートギャラリーや通信デバイスの役割を果たします。共同作業の手段を得た生徒たちは、静的な情報中心のコンピューティングと学習方法を超える体験ができます。
Negroponte氏は、すべての子供がノートPCを持つべきだという考えに基づいて、企業コンソーシアムを設立しました。 メディア研究所のWebサイトによると、「100ドルノートPCは、世界のすべての子供に知識と最新の教育へのアクセスを提供できるほど十分に安価なノートPCを設計、製造、および配布するために設立された、独立非営利団体のOne Laptop per Child(OLPC)によって開発されています」。コンソーシアムのメンバーには、Advanced Micro Devices(AMD)、Brightstar、Google、News Corporation、Nortel Networks、およびRed Hatが含まれています。
ガーディアン紙によると、Negroponte氏は次のように述べています。「ご存知のとおりノートPCはぜいたく品です。教育はそうではありません。100ドルあれば、子供たちに高価な道具や玩具を与えなくても、学習や調査ができます。教育によって、医療から食糧、産児制限まで、ほとんどあらゆるものに、最高にとまではいきませんが、かなりうまく対処できます。格差の大きさが教育に比例することは明らかです。貧困があるかぎり平和が訪れることはありません。そして、貧困は教育によってのみ根絶できるのです。」
OLPCコンソーシアムのメンバーは、ハードウェアの仕様、ソフトウェアの機能、およびハードウェアとソフトウェアの厳密な連携方法を定義する作業を行っています。メンバー企業の従業員、外部の専門家、MITのスタッフ、学生、およびボランティアの全員が設計プロセスに関与しています。多くの発展途上国と先進国の首脳(および米国の数人の州知事)が、このプロジェクトに関心を示しています。
では、なぜいま、このようなイニシャティブを進めているのでしょうか。「我々は30年にわたってコンピュータと教育に携わり、20年にわたって発展途上国のコンピュータ利用を推進し、10年にわたって低コストマシンの開発に努めてきました。」と、Negroponte氏は語っています。「急に方向転換をしたというわけではないのです。一線を越えることができたのは、それが可能になったためでした。新たに開発された一連の技術、たとえば、電子インクのようなディスプレイ技術、メッシュネットワーキングによる通信、メディア研究所との関連で登場した複数の技術などは、機が熟したことを示していました。また、発展途上国では通信が急速に発展し、考えていたことが起こりつつあります。実際、もはや我々がいなくても、それは起ころうとしているのです。そのため、デバイスと『1人の子供に1台のノートPC』に焦点を合わせることは、いわば当然の仕事でした。」(Wired News、2005年11月17日)
Negroponte氏の構想には、オープンソースのオペレーティングシステムとアプリケーションソフトウェアが含まれていました。それによって、子供たちはニーズと能力の変化に合わせて、自分のマシンを調整し、適応させることができます。
「技術産業によって多くの人々のために莫大な富が生み出されていることを考えれば、これほど多くの人々が21世紀のデジタル環境に参加するツールやリソースを欠いていることは不合理だと考えました。」と、Red HatのCEOであるMatthew Szulik氏は語っています。「One Laptop per Childイニシャティブは、ほかの人々の生活を少しずつ向上させながら画期的事業を進めているRed Hatの取り組みの新たなステップです。」
Red Hatの企業業務を担当しているVPのTom Rabonは、次のように述べています。「OLPCプロジェクトは、刺激に満ちたRed Hatの事業を象徴しています。我々には当たり前になっている情報スーパーハイウェイを利用できない人々にテクノロジを提供すると同時に、大局を見すえて自社のビジネスチャンスを生み出すことのできる企業がほかにあるでしょうか。しかし、Red Hatが他の多くの企業と違うのは、よいことを行い、他者を助けようとする願望がOLPCへの参加を決定した主要な動機だったということです。」
「昨年の早春、Paul Cormier(Red Hatのエンジニアリング担当EVP)と一緒にMITメディア研究所を訪問する機会に恵まれたことは非常に幸運でした。Nicholas Negroponte氏に会った瞬間から、この人はテクノロジで全世界の教育を可能にし、向上させる構想について、偽りのない情熱を持っているとわかりました。私には、それがRed Hatの使命と多くの共通点があるように思えました。」とRabonは述べています。
プロジェクトについてRed Hatのエグゼクティブコーディネータを務め、OLPC理事会のRed Hat代表でもあるMike Evansは、プロジェクトに参加するというRed Hatの決定には、3つの指導原理があると述べています。それは、テクノロジをより身近なものにすること、教育/学術界との関係を強化すること、およびRed Hatの企業としての主要目標の1つである社会機構の向上を追求することです。
「1つの目標は、教育環境向けに設計されたオープンソースソフトウェアアプリケーションのプラットフォームを創ることです。MITメディア研究所にはこれに関して大量の蓄積があり、現場にはその他の専門家がいます。我々の目的は、この指導的企業および指導的な教育専門家のコンソーシアムと緊密に連携し、優れたノートPCシステムを生み出すことです。」
「大局的に、500万人、1000万人、5000万人、5億人もの生徒がオープンソースベースのテクノロジを手にすることの可能性を考えてみてください。(5年、10年、20年という)長期的展望で考えれば、オープンソースソフトウェアをビジネス、教育、消費者環境、および個人用途に使用し、構築する途方もない世界的勢力が生まれることになります。これは、コンピュータソフトウェアにとどまらず、他のいくつかの分野で、オープンソース的な思考と方法のアプリケーションを生み出すことにもつながると予想しています。」とEvansは述べています。
しかし、最低100万台の注文が必要な場合、これらのノートPCの初期コストをとうてい支払えない政府もあるのではないでしょうか。「教科書の内容をデジタル形式で配布するというコンセプトと、印刷した本のコストを比較するだけで、それを十分に正当化できます。『最新の』教育コンテンツを使用し、インターネットに接続し、自分でプログラムやモデルを作成する能力が加われば、その効果は絶大です。」
Evansは次のように続けます。「我々は、オープンソースソフトウェアの開発モデルとコミュニティ活動における経験とリーダーシップによって、ソフトウェアチームのキーメンバーになっています。プロジェクト専任の技術者と設計者を揃え、その一部はMITの現場で作業しています。このコア開発チームは、必要に応じて社内の他の専門家から支援を受けます。また、このプロジェクトは全世界で多くのRed Hat社員の想像力をかき立てており、貢献する方法について多くの社員から問い合わせがあります。」
Red Hatは現在、第1世代と第2世代のOLPCノート用のオペレーティングシステムソフトウェアを定義しています。設計計画にはOSとアプリケーションに関する作業が含まれますが、トレーニング、サポート、アップデートの提供、追加的なテクノロジの統合など、長期にわたるより広い問題も視野に入れています。
このプロジェクトはRed Hatの通常の顧客基盤(ビジネスユーザなど)から離れるため、新しい思考パターンと革新的な設計が要求されます。プロジェクトの主目的は、現在および将来のソフトウェア計画を具体化したいという願望だけでなく、プロジェクトの成功を通じてRed Hatが世界の変化を促進できるという考えに基づいて推進されています。
現在のハードウェア仕様には、800×600デュアルモード(フルカラーまたは高コントラストの白黒)LCDディスプレイ、500 MHzプロセッサ、ワイヤレスメッシュネットワーキング、1 Gのフラッシュメモリストレージ、および手回しクランクによる発電などが含まれています。ケースは緑色と黄色のプラスチック製です。
このハードウェアのオペレーティングシステムを開発するにあたって、課題は何でしょうか。Red HatのOLPCプロジェクトマネージャであるBrian Steinは、それを次のように説明しています。「これらはハードウェアをはるかに超えた課題です。Nokia 770タブレットなどの最近の組み込みデバイスに比べて、ここでは相当な力量を割いています。メモリの占有面積はたしかに難しい問題ですが、最大の課題は、これほど幅広いユーザに適合する、優れた設計のデバイスを提供することです。とはいえ、Red Hatの設計者と技術者は作業に取り組み、この機会と課題に意欲を燃やしています。そこでは、創造的な技術的思考と実際的な技術的思考のバランスが要求されますが、これこそ我々の本分とするところです。」
「OLPCのソフトウェアでは、またとない機会であると同時に難問でもある設計課題に直面しています。機能的な無学、子供の所有権に対する見方が文化によって異なること、多言語入力など、非常に現実的な特定のハードルを超えて、状況は半哲学的な問題を提起しています。子供にとって意味のある形で子供の生活と関連し合うことができ、社会が教育的価値を見い出せるようなコンピュータを設計するにはどうすればよいかということです。」と、プロジェクトの主任インタフェース設計者であるSeth Nickellは付け加えています。
OLPCの成功への潜在的な(政治的、文化的、社会的)障壁は、数多くあります。 不十分なインフラストラクチャ、貧困と戦争による社会的不安定、低い識字率、および汚職などです。実際に生徒の手に渡るマシンは、結局ごくわずかになるのではないかという懸念も聞かれます。1億ドルをノートPCにかけるのと、きれいな水や衛生にかけるのと、どちらがよいかと問う声もあります。Digital Divide Networkのアーカイブや、Slashdotの最近の記事への反応を一読すれば、すでに発展途上国の社会的、技術的問題に取り組んでいるコミュニティから発せられるさまざまな懸念について考えが得られます。
高価なコンピュータを継続したい人々からは、ある種の保護主義的な動きもあります。また、100ドル以下で販売されるようなノートPCは、長期的にみて競争力を持つほどの技術を備えることはできないという主張もあります。
否定論者は数多くいます。しかし、不可能だと思う人がいれば、一方では夢に賭ける人が必ずいるものです。世界中の多くの政府がテクノロジによって国民を前進させたいと考え、デジタル対話に参加するための支出に前向きになっています。国民を接続し、より優れたツールと情報アクセスを提供することが悪いことであるはずはありません。「グローバルな進歩と包容を押しとどめることこそ、間違った側に属する悪事なのです。」とEvansは述べています。
では、その成功に対する見方がこれほど分かれているときに、Red Hatはこのプロジェクトに参入すべきだったでしょうか。Red Hatの経営陣は2つのオプションを検討しました。あまりに困難であることを理由に参加を取りやめ、あきらめるか、それとも積極的に参加して、よりよい方向へ世界を変えようとするかです。Red Hatは後者の考え方に立つことを選びました。Red Hatは野心的なものに組し、安易なものは拒否します。必要かつ実行可能でなければならないのはもちろんです。
「Red Hatの社員は、(きわめて困難であろうと)多くの人々の生活向上に貢献する機会をとらえます。今回の課題に挑んだことは、私にとって何ら驚くにあたりません。彼らは常に大きな課題に触発されてきたのです。」とSzulikは述べています。
世界を真に変革した人は誰でも、たいてい当初は疑われ、嘲笑されたものです。ガンジーが言ったとおり、「最初は無視され、次に笑われ、そして挑まれ、しかし最後には勝つ 」(この言葉は、 Red Hat本社のロビーに大きく掲げられています)。
Kofi Annan氏は、先月チュニスで開かれた世界情報社会サミット(WSIS)で100ドルノートPCを紹介しました。開会宣言において、Annan氏は次のように述べました。「発明のなかには、時代に先駆けたものもあります。また、完全に時代に合致したものもあります。さらに、見聞きした瞬間、なぜ登場するまでそれほど長い時間がかかったのか不思議に思うような、明らかで当然に思えるものもあります。あらゆる重要性を一身に備えた発明は、実にまれです。しかし、世界的に有名なMITメディア研究所のNicholas Negroponte氏と彼のチーム、およびそのパートナーは、そうした画期的発明をもたらしました。100ドルノートPCは、多くの点で勇気付けられるものです。」
政府と企業は参加を強めつつあります。OLPCプロジェクトの成否は、それをサポートするコミュニティの強さにかかっています。Linuxコミュニティにとって、世界にこれほどの変化をもたらすチャンスはもうないかもしれません。世界を、一度に100万人の子供たちを変えるRed Hatの取り組みを支援しませんか?olpc@redhat.comに電子メールをお送りください。新しい情報が利用可能になり次第、ご連絡します。その他の情報については、下記をご覧ください。
Lucy Ringlandは、Red Hatのドキュメンテーションの専門家です。